photo 京都市立芸術大学対策(2022年度入試)

京都芸大は5つある国公立の芸大・美大の中で神戸から一番近い大学です。当研究室から受験する生徒数が一番多い公立大でもあり、対策に力を入れています。
松尾美術研究室  
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 入試の特徴
  1. 3課題の全受験生共通実技
  2. すべての科に共通する造形の基礎力と、柔軟に取り組む対応力を問う
  3. 実技点数に上下の開きが大きく、合格最低点(ボーダーライン)が5割5分と低い
  4. すべてに高得点を取らなくても合格できる
 対策
  1. 大学入学共通テスト
  2. 描写
  3. 色彩
  4. 立体
  5. 小論文



入試の特徴

1.3課題の全受験生共通実技
   この大学の最大の特徴は、他の芸大と違って科ごとの試験がなく、総合芸術学科をのぞく美術科、デザイン科、工芸科の志望者全員が同じ実技試験を受けることです。1日目が「描写4時間」と「色彩3時間」(総合芸術学科は描写4時間+小論文2時間)、2日目が「立体3時間」となります。日本画や油画などの志望者にも立体が課せられたり、彫刻志望者に色彩が課せられたりするという意味で負担が多いのですが、2012年度入試まで3日間4課題だったことを考えると、2日間3課題の現在は以前よりも対応しやすくなっています。それぞれ250点満点で実技合計750点、これに共通テスト(美術・工芸500点、デザイン700点)が加算されて合否が決まります。総合芸術学科は、描写250点+小論文200点の450点に共通テスト4教科600点が加算されます。

2.すべての科に共通する造形の基礎力と、柔軟に取り組む対応力を問う
   他の大学では、例えばグラフィックデザイン科は発想を重視するとか、彫刻科は立体感の強いデッサンを要求するとか、それぞれの専門性を入試に盛り込みます。京都市立芸大では各科ごとの専門試験がないかわりに、すべての科に共通する造形の基礎力と、幅広い出題傾向の色彩と立体においては特に柔軟に対応する力を問います。デッサン(及び立体の模刻)においては「客観的に丁寧に写実する力」も必要となります。

3.実技点数に上下の開きが大きく、合格最低点(ボーダーライン)が5割5分と低い
   実技点数の採点では、上下の開きが大きくなっています。年々その差は激しくなり、良い作品には満点やそれに近い点数が出ている一方で、250点満点の40点台(100点満点に換算すると20点前後)という、他の大学では考えられない低い点数を付けられるケースも出てきました。ただ、すべての実技、学科で高得点を取る受験生はまれです。共通テストも含めた最終合否のボーダーライン(合格最低点)は得点率55パーセント前後という他大学にない低い数値になっています。

4.すべてに高得点を取らなくても合格できる
   共通テスト、描写、色彩、立体の4種類のうちの2種類で高得点を取った人は、他の2種類が低い点数(3〜5割)でも合格しています。また、高得点は取れなくても4種類とも6割前後の点数を取って合格している人もいます。すべてに高得点を取らなくても合格できる大学です。ここで言う高得点とは8割以上の点数、実技では200点近くからそれ以上を言います。しかし、6割の150点前後でも京都芸大では合格に貢献する良い点数なのです。
   8割以上の高得点を2つ以上取ること。あるいは高得点でなくても6割をキープすること。これが合格の目標点数です。


対策

   3種類の実技をそれぞれしっかり練習していく必要がありますが、その上で出題に対するアプローチを造形によって明快に提示できた作品が高得点を取っています。各自の得意な分野をしっかり伸ばした上で、積極的かつ柔軟に問題に取り組む姿勢が大切です。実技採点の上下の開きが年々エスカレートしていること、’09年からの学力科目の増加を考えると、共通テストである程度点数が取れている方が合格しやすい状況です。

1.大学入学共通テスト
   美術科・工芸科は4教科、デザイン科は数学必須の5教科、総合芸術学科は4教科になります。実技との比率は、美術科・工芸科が実技750点:共通テスト500点で実技重視、デザイン科が実技750点:共通テスト700点とほぼ半々、総合芸術学科は実技小論文450点:共通テスト600点と共通テスト重視になっています。総合芸術学科とデザイン科では共通テスト対策が特に重要になっています。
   ただその一方で、学力テストが4割しか取れなくても合格しているケースがあるように、実技で高得点を取れば挽回できる大学です。とは言っても、あまりに低いと実技で1つの取りこぼしもできない、きびしい状況になります。現役生では6割5分以上、より勉強時間を割くことが出きる浪人生は7割以上を目標にしてください。8割以上取って実技練習も継続して行っていると、かなり合格に近づきます。


2.描写
   かつては木炭紙大画用紙で大きなモチーフを描く出題もありましたが、現行の4時間になってからは、四つ切り画用紙による卓上鉛筆デッサンが出題されています。日本画から発展した大学ということもあり、精密描写が要求されます。時間内に細部まで丁寧に描き込む力をつけましょう。荒いデッサンやニュアンスの乏しい堅いデッサンは嫌われます。
   色の白っぽいもの、モチーフ自体に存在感の薄いもの、それでいて細かく描くところの多いもの、かっちりした形態よりは不定形やひずんだかたちのものがよく出題されます。透明なビニール袋、アルミ質のような光を反射するもの、また、リンゴ、レモンなどの丸い果物もよく出題されます。紙コップ50個が出題されたり、紙類、タオル、ロープなどかたちの変えられるものが絡むことも多く、構成力が問われます。
   白いものはちゃんと白く表現しながらも陰影を的確にとらえて立体感を出すこと、微妙なトーンのあり方を正確に観察すること、そのためにモチーフの関係性を最初から意識して立ち上げていく描き方を身につけることが必須です。細かな細部が多いモチーフ(人工芝、モップ替糸、かごと豆絞り、など)もよく出題されますが、積極的に構成してを描き切ることができれば高得点も期待できます。無駄な余白を無くし、画面を大きく見せることも大切です。
デッサン
(2018年度入試再現作品 248/250点)


3.色彩
   3時間の色彩課題では、美術、デザイン、工芸の共通課題という理由もあり、幅広い形式で出題されています。造形的な基礎である「きれいな色の組み合わせ」と「構成力」を身につけた上で、出題に対するアプローチを明解に打ち出すことが問われます。以前は簡単な言葉がテーマとして与えられる自由な課題が多かったのですが、近年は以下のように条件や禁止事項が多い出題となっています。
*直線や円というシンプルな分割や構成条件が与えられたり、1面1色ベタ塗りなどの限定的な彩色条件で、抽象的な構成が求められる課題('10年「条件に円」、'11年「条件に直線」、'12年「直交する水平・垂直の直線のみで分割、1面1色」、'19年「直線のみ、1面1色ベタ塗り」、'21年「線で分割、1面1色ベタ塗り」)。
*白黒やグレー、銀色などの紙を貼り、絵の具と併用でテーマを表現する課題('13年、'17年、'18年、'21年)。
*具体的なモチーフが与えられるモチーフ構成('15年「白ロープ」、 '16年「みかん」 、'20年「白い紙」)。
*内容の違いを表現する対比問題('18年、'21年)。
*その他、色紙を自分で作って貼る課題('96)や絵の具を3色+白黒に限定する課題('06)も過去に出ています。
   言葉や文章としてテーマが与えられた場合は、そのテーマを大きく扱い、色と形で明快に表現するようにします。テーマを考慮せずに自分の得意な表現を無理に当てはめた作品は大きく減点されてしまいます。色彩は、2色のきれいな組み合わせをたくさん覚えることから始めて使える配色を増やしてください。構成では、幾何形態による練習で基礎力をつけながら 「明度設計」という方法を身につけ、効果的に構成できるようにします。その上で、3時間という短い時間で制作するための段取り、手順をつかみ、高い完成度で仕上げる力をつけましょう。
色彩
(2017度入試再現作品 220/250点)


4.立体
   立体造形の基本を習得した上で、テーマに対するアプローチを造形ではっきりと提示することがポイントです。ケント紙やボール紙、ダンボールなどの紙を素材にした出題が多いのですが、スチレンボード、木の角材、竹ひご、針金、アルミ板、粘土(油土、紙粘土、石粉粘土)、タコ糸、スポンジ、など他の素材や複合素材で出題されることもあります。また、既成の製品が素材として与えられることもあります(割り箸'01年度、紙コップ'05と'07年度、ストロー'10年度、白いストッキング'11年度、名刺カード'14年度、ダンボール箱とノート'19年度)。実物のリンゴ('02)や傾斜した台座('15)、小さな人形の視点('16)のように造形の素材以外に何か与えられた場合はそれがテーマとなるので、それらの性質を生かした造形で発想しなければいけません。空間のサイズが与えられるので、それを十分に生かして構成することも大切です。抽象化しながらも単純すぎない形態や組み合わせを出せるように練習し、シンプルな造形で空間を成立さることができれば高い評価が得られます。いろいろ付け足して装飾的になったり、統一感がなかったりすると、意図の見えにくい作品として評価が下がります。’12年度には粘土によるピーマンの写実的模刻課題が出たので、模刻対策にもある程度時間を裂く必要があります。
立体
(2016年度入試再現作品226/250点)


5.小論文
   小論文では、芸術や文化に関する課題文が出題されます。その要約をする設問、次に文章中の言葉の意味などを問う設問、そして、関連したテーマに対する意見を問う設問、というように、3問出題されるのがベーシックな形式ですが、年度によっては2問の時もあり、’18年度は、文中に挿入する挿絵を描く出題と図版による鑑賞問題、というこれまでにない形式で出題されました。
   課題文には、西洋美術から日本美術、現代美術まで幅広い地域、時代に関する芸術論や文化論、エッセイが出題されているだけでなく、寺田寅彦や中谷宇吉郎といった科学者の文章も出題されています。幅広く文化芸術や自然科学に興味を持つことが大切であり、こうした文章に日頃から読みなれておく必要があります。文章の本質的な内容をつかみ、選ばれた短い言葉で他者に伝える能力が求められるので、例えば読んだ本の1章を選ぶなどして300字〜400字にまとめる練習をしておくと良いでしょう。また、挿絵を描かせる出題については「情景をイメージしながら文章を読めているか」という意図があったということなので、文章の内容によっては生き生きとしたイメージを伴いながら読むようにすることも大切です。
   受験生の意見が問われる設問では、あくまでも出題文を踏まえた上での意見が問われています。具体的な経験を伴った言葉は説得力を持つので、日頃から美術だけでなく音楽、映画、舞台、ドラマ、漫画など芸術一般やサブカルチャーに接して感じたこと、考えたこと、疑問に思ったことを言語化しておくことが大切です。その意味では日記という形で感じたことを書き留め、そこから考えを広めていく習慣を付けておくと良いでしょう。

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